★新しく「真言情報ボックス第3集」を始めました。最初の記事は「佛菩薩同体の事」です。
悟りを開いて佛に成るとはどういう事でしょう。佛教各宗各派に依り、或いは個人に依って、その答えは様々でしょう。所詮は自ら心身に覚悟して成佛する以外にそれを知る方法はありません。
金剛頂密教に於いては、『初会金剛頂経』に教理面からの答えが記されています。その事を知るヒントは行法次第である『蓮華部心軌』、乃至其れに基いて製作された『金剛界次第』類にあります。即ちこれらに於いては、「佛」真言と称して大抵は佛の名号では無く「菩薩」名号が用いられています。此の事を手掛かりに佛と菩薩の同異に付いて考えてみました。
(令和六年七月十一日)
★『柴田賢龍密教文庫研究報告』に新しく『真慶撰『諸流汀』の翻刻和訳紹介 其の一』を投稿掲載しました。
真慶(生没年未詳)は平安末から鎌倉初期にかけて活躍した勧修寺流良勝方の優れた学僧であり、現存聖教の識語中にしばしば其の名を見出す事が出来ます。又師僧の常光院良弘法印(1130ー88ー)は安徳天皇の護持僧に補任していましたが、壇ノ浦の戦いで平家が滅亡した後に罪人として配流(ハイル)の憂き目に遭いました。其の事に依り、高弟の真慶も先途を失ったようです。
ここに紹介する本は金沢文庫保管称名寺聖教中の古写本であり、真慶の学系や鎌倉初期の勧修寺流灌頂口決を知るうえで非常に貴重な史料です。
(令和六年六月七日)
★「真言情報ボックス第2集」に新しく「9.毘首羯磨の事」を掲載しました。
毘首羯磨visvakarmanは帝釈天の一眷族であり、諸物を化作(ケサ)する能力に優れた神/天として多くの顕教経典に登場します。一方密教に於いては『金剛頂経』系の経典の中で、三十七尊中の金剛業菩薩として記される事が多々あります。本稿では顕密両経典に於ける使用例を列挙して、毘首羯磨に対する十全の理解に資するよう努めました。
(令和五年11月11日)
★「真言情報ボックス第2集」に新しく「金剛界法に不動結界を用いる事」を掲載しました。
中古を通じて小野流金剛界法の模範とされた延命院元杲(ゲンゴウ 914ー995)作の『金剛界念誦私記』に於いては、道場観の後の結界の一段に胎蔵法の不動結界を用いています。是は此の略次第である遍智院成賢(セイゲン 1162ー1231)作の『金剛界念誦次第』に於いても踏襲されています。しかし多くの古次第が示す所、この部分の結界尊にはやはり金剛界の忿怒明王降三世尊が用いられています。本稿では元杲が降三世に変えて不動を用いるに至った経緯について、古次第や有名な仁和寺の学僧済暹(サイセン 1025ー1115 )の説等を検討して明らかにしています。
(令和五年8月22日)
★「研究報告」に新しく「『三種悉地軌』『破地獄軌』と両部不二の事」の掲載を始めています。
伝教大師最澄は入唐中に順暁阿闍梨より密教の「三種悉地法」を伝受して本邦に伝え、此の法は台密の秘法として中古(平安中期から鎌倉時代)を通じて相伝されるに至りました。三種悉地法を記す経典(儀軌)に善無畏訳と伝える『三種悉地軌』『破地獄軌』等がありますが、これらは同類の経典ながら其の内容に大きな違いがあります。しかし其の特徴として胎蔵・金剛両部の法を併(アワ)せ記す事は共通しています。又大変意外な事ですが、この三種悉地法と其の儀軌は、東密小野流の金剛界法道場観や伝法潅頂の重位印言に影響を与えたようです。
令和5年(2023)8月1日、記事を完結しました。
起稿当初の予定より大幅に紙数が増えた為に、モーバイル機器の読者の便宜を計って「其の一」「其の二」の二部構成にしました。
「★研究報告」に新しく「『秘鈔』の調巻と愛染法脱落本の事」を掲載しました。
醍醐寺の覚洞院権僧正勝賢が諸尊法に関する口伝を仁和寺御室の守覚法親王に撰進、或いは面授し、親王が是を類聚して成立した『秘鈔/白表紙』は、早くより調巻を異にする各種の伝本が流布して、鎌倉時代後期には親王撰述の原本に付いて様々な説が行われていました。
本稿では鎌倉時代後期の各種史料を検討して、親王製作の『秘鈔』原本は十三巻本であり、金沢文庫保管称名寺聖教中に存する法助准后相伝13巻本の転写本がまさしく其れに相当すると一応の結論を得ています。
又後代に18巻本が流布本に成った経緯に付いても各種史料に基づいて検討し、やはり一応の結論に達しています。
令和四年(2022)三月吉日
「柴田賢龍密教文庫「研究報告」」に和訳紹介『曼荼羅供記』第一回を投稿しました。
原本は国立歴史民俗博物館蔵田中穣(ユタカ)氏旧蔵典籍古文書の写真帳です。本書は正嘉二年(1258)七月五日に催された、後鳥羽院妃であり土御門天皇の母后でもある承明門院(1171―1257.7.5)追福の為の仏事である曼荼羅供の記録です。
大阿闍梨は醍醐寺の報恩院僧正憲深が勤めましたが、職衆十口の半数は山門(延暦寺)等他寺の僧である等、興味深い記述が多々見られます。
令和3年3月3日
『曼荼羅供記』第二回「院宣と仏事支度等の事」を公開中です。
『曼荼羅供記』第三回「曼荼羅供当日の事」を公開しました。
『曼荼羅供記』第四回「布施取り・還列と職衆の事等 付:諷誦文の事」を公開しました。以上で和訳紹介『曼荼羅供記』は完結しました。
★『訳注 薄草子口決 全二十巻』一部2冊 【絶版】
ー本文和訳篇ー 一冊、ー注釈篇ー 一冊
柴田賢龍著 2002年(平成14年) 藤井佐兵衛(文政堂)発行
価格(一部):28000円+消費税
『薄草子口決』二十巻は、新義真言宗教義の大成者である頼瑜法印(1226ー1304)が醍醐寺報恩院の憲深僧正(1192ー1263)から面受した三宝院流の諸尊法に関わる口伝を詳細に記述し、更に憲深が丁寧に補説を裏書した、他に類例を見ない真言事相書中の白眉。「和訳篇」は、緻密な研究に裏打ちされた正確で読みやすい文章で統一されており、一方「注釈篇」は、明治以降現在に至るまでに出版された各種仏教叢書は固より、単行本・論文類も広く利用して、本文の出典以下の内容に付いて広く検討を加えています。
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★『日本密教人物事典』(副題:醍醐僧伝探訪)上巻
柴田賢龍著 2010年(平成22年) 国書刊行会発行
価格:20000円+消費税
平安時代中期の仁海僧正より始まり平安末・鎌倉初期に至る醍醐寺僧とその周辺の他寺重要人物の詳細な伝記集です。仏教叢書類は固より、公卿日記や近年刊行の聖教目録類、各種論文を広く出典史料(資料)として用いています。巻初に書き下ろし論文「平安時代の密教と醍醐寺」を収めています。
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★『日本密教人物事典』(副題:醍醐僧伝探訪)中巻
柴田賢龍著 2014年(平成26年)国書刊行会発行
価格:20000円+消費税
中巻では勝賢僧正の弟子達と、その中の遍智院成賢僧正・金剛王院実賢大僧正の弟子達の伝記が内容の過半を占めます。又木幡真空上人や加茂空観上人、岩倉大円上人等、従来まとまった研究に乏しかった遁世上人の詳しい伝記が収載されているのも大きな特徴です。
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真言秘密伝授の事
長期にわたった藤井文政堂に於ける真言秘密伝授は、諸般の事情により終了させて頂く事になりました。今まで各種の真言伝授に法務ご多忙にもかかわらず御足労いただいた皆様には、法流護持に対する熱意に随喜すると共に改めて厚く感謝申し上げます。
又機会を計らい、場所を変更して伝授を再開したいと思っています。その節にはよろしくお願いいたします。
令和三年十一月 日 柴田 賢龍